愛されジョーズ

music writer 上野三樹

ストライプのサルエルパンツ完成。

手触りがサラッとしていて気持ちが良いストライプ柄の生地で、カメ美ちゃん(3歳)のサルエルパンツを作りました。2枚の布を縫い合わせてウエストにゴムを入れるだけの簡単な作りなので、初心者でも2〜3時間あったら作れます。裾周りにもゴムを入れる予定でしたが、真っ直ぐダボッとしたシルエットで着るのも可愛いのでそのままに仕上げました。

f:id:miki0507:20170822113752j:image

カメ美ちゃんはいつも「これ着てみて〜」と言うと嬉しそうに着てくれます。ウエストのゴムの感じもちょうど良さそう。使用したのは『小さな子どものためのかわいい服』という本のパターン。簡単なパターンを少しずつアレンジして色んな服を作れるように提案してあるし、生地を変えることで夏も冬も着れるような可愛い服がたくさん載っています。

f:id:miki0507:20170822120528j:image

とはいえ「こんな簡単なパンツでも2〜3時間はかかるんだよなあ……」と思ったり。というのも、以前「とあるきっかけがあって洋裁をはじめた」と書きましたが。実は春に、幼稚園のクラスの係決めがあって、そこで「発表会で子供たちが着る衣装を作る係」になってしまったのです。その発表会というのがまず何をするのかさえ知らないのですが、おそらくお遊戯会的なものでしょう。年明けの2月くらいに開催されるそうで、この係になった人は(クラスでふたりしかいないんですが)、冬休みの間にクラス全員26人分の衣装を作らなきゃいけないそうです。大事なとこなので2回言いますけど、ふたりで26人ぶん……!

ちなみにひとりひとつは何らかの係にならなきゃいけなかったのですが。運動会係(準備に追われて当日は自分の子の競技を見ることさえも危うい忙しさらしい)や、お祭り係(炎天下で焼きそばやラムネを売り続ける)など、どれもなかなか過酷そうなものでした。なのでいっそ、黙々と制作する衣装係はどうだろう、子供たちが可愛い衣装を着てくれたら嬉しいし、なんて思って引き受けました。それと、「私、実は短大が被服科だったし」というたかをくくりました。これが完全に間違いだったと、久しぶりにミシンと向き合ってみて、実際に服を作って感じていることです。「どうしよーーーーーう!」(心の叫び)。果たしてカメ美ちゃんのクラスではどんな衣装を作るのか予想もつきませんが、一応、簡単なワンピースとかパンツとかベストくらいなら作れるように、大急ぎで絶賛修行中であります。

今日こんな曲/中嶋ユキノ「伝わんないと意味がない」

ナタリーさんで取材させていただいたインタビュー記事が公開されましたので、今日は中嶋ユキノさんのアルバム『空色のゆめ』から「伝わんないと意味がない」を。

小さい頃から歌手になりたいと思ってきた彼女は、2003年より川嶋あいさんや水樹奈々さん、ももいろクローバーZなど数々のアーティストのバックコーラスや、菅原紗由理さん、伊藤由奈さん、AAAなどへの作詞提供など歌にまつわるお仕事でキャリアを重ねてきました。歌のお仕事だけで食べていけるようになっていたものの、30代になり、やっぱりシンガーソングライターになりたいという夢を諦めきれずにいた頃に、浜田省吾さんと出会い、ツアーにバックコーラスとして参加したことがデビューのきっかけになったそうです。取材でお会いしたユキノさんは、すごく明るい人柄で、30代女性の等身大の歌を歌いながらも、シンガーソングライターとして活動できることへのフレッシュな喜びに満ちていて、それでいてやっぱり歌声はプロフェッショナル!なところが素敵だなと思います。彼女が作詞・作曲を手がけた「伝わんないと意味がない」は、普段の日常会話では色んなことを考えすぎて、言いたい言葉を飲み込んでしまうようなところがあるというユキノさんの、そんな自分を変えたい、想いを伝えたいという気持ちが伝わってくる。幅広い年齢層に浸透するポップスとしての力を感じさせる1曲です。

youtu.be

ちなみにユキノさんはアーティストが歌入れをする前のデモテープに歌を吹き込む、いわゆる「仮歌」のお仕事もされているそうです。職人気質なこだわりを持つ、そんなお話もとても興味深かったです。

ナタリーさんでのインタビューも併せてどうぞ。

natalie.mu

今日こんな曲/DAOKO×米津玄師『打上花火』

昨日の夕方の大雨は本当にひどかった。辺りが真っ白になるくらいの豪雨で、凄まじい音量で雷が鳴って、自宅もほんの数分だったけど停電した。多摩川では花火大会が予定されていたそうで、中止になった時の様子がニュースで放送されていたけど、場所取りをしながら花火大会が始まるのを待っていた人たちが雨に打たれる姿はかなりかわいそうなものだった。でもどうして人は、さんざん雨に打たれて雷が鳴っていても、この時が過ぎ去って花火大会が始まることを信じてしまうんだろう、とふと思った。傘が風に振り回されながら、必死に浴衣の裾を押さえながら、それでもその場を離れようとしない人が多かったのだ。「花火大会は中止です」のアナウンスを聞くまでは。

浴衣を着て家を出るときは想像もしなかった光景が目の前に広がっているであろうのに、その渦中にいると、自分がどんな状況に置かれているのかを客観的に判断することが難しくなるのかな。自然災害の時の避難とか、ちゃんと身を守るために気をつけたいところです。みんながこうだから、きっと大丈夫だろうと、油断しがちって言うしね。そして、あの時すごい雨で結局、花火も見れなかったね、ということだって後になってみれば強烈な思い出になる。

映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌『打上花火』は今年の夏ソングとしてヒットしそう。試写で見させていただきましたが、このアニメ映画も「ただ花火大会に行く、それだけなはずだった」ある一日の物語。いつの間にか辿り着いた壮大な景色の美しさと奇妙な世界観にハッとさせられる作品です。

 


youtu.be

函館と鹿児島のお土産たち。

今日は旦那が出張先の北海道から送ってくれたトウモロコシが届いたので早速お鍋で蒸しました。「味来」という種類のもので生でもフルーツみたいな甘さをみずみずしく放っております。ついでに私が鹿児島で買ってきた豚とろラーメンも作ってみんなでお昼ご飯にしました。夏は特に、出張が増えるので甘い物も含め食卓に各地の美味しいものが並ぶ機会が増えます。

函館ではスナッフルスというお店のチーズオムレットが有名で、それもとても美味しかったのだけれど、マルセイバターサンドでお馴染みの六花亭が新商品としてマルセイバターケーキなるものを売り出していました。柔らかなレモン色のパッケージが何ともそそりますが「バターケーキとは何ぞや?」と思いつつ購入。中身は「そう来たか〜!」って感じの素敵な美味しさで、さすが六花亭。ありそうでなかった、でも絶対こんなん好きに決まってるやん、というラインをごくごくシンプルにストレートに狙ってきます。

f:id:miki0507:20170819182551j:image

函館空港で是非買いたいなと思っていたのは「ハコダテマウンテン」というネーミングのコーヒー。末広町にある小さなカフェ「をしをコーヒー」の店主がブレンドしたというコーヒーなのですが、お相撲さんが小さなコーヒーカップを持って仁王立ちしているパッケージが何ともインパクト大。友達にあげるお土産に購入しました。

f:id:miki0507:20170819182610j:image

自分用にはパッと目について可愛かった「かおるいえ」という家の形をしたアロマストーンとアロマオイルのセットを。函館の街を歩いていると、ラベンダーが普通に植えてあってとてもいい匂いがしました。生のラベンダーの匂いをかいだのは初めての体験だったのでとても感動したのです。「かおるいえ」のアロマオイルはラベンダーとグレープフルーツがあって、そんな理由でラベンダーが良かったのですが軟石でできているという小さな家の表情がひとつひとつ違っていて、気に入ったのおうちに付いているのがグレープフルーツのアロマだったので家の可愛さ優先でそっちを買いました。玄関に飾りたいなと思っています。

f:id:miki0507:20170819182622j:image

鹿児島ではミュージシャンのノマアキコさんに明石家のかるかん饅頭と、娘に絵本をお土産にいただきました。かるかん饅頭って真っ白で素朴だけれどふんわり甘くて、あれも魅惑の美味しさですよね。中にあんこの入っていないかるかんもあることを初めて知りました。いただいた絵本の方は、これまたオシャレな、とってもアートな「KAGUYAHIME」。大河原健太郎さんというアーティストの方によるものだそうです。かぐやひめだけじゃなく、ももたろうや、さるかにがっせん、などもあるようです。これまで見てきた、あの有名なお話たちですが、これまで見てきたような絵ではないところがとてもユニークで大人も楽しめる絵本だと思います。

 f:id:miki0507:20170819182642j:image

f:id:miki0507:20170819182722j:image

洋裁はじめました。

とあるきっかけがありまして、この夏は洋裁修行をはじめました。20年ぶりくらいにミシンを触って子供のブラウスやパンツを縫っています。まずはどんなミシンにするのか、購入する際にも色んな驚きがあったので、それもまた別の機会に書きたいのですが。布を買ってきて、型紙をハトロン紙に写して、布を裁断して、ミシンで縫って……という完成までの長い道のりの中で、「型紙作るのがまずめんどくさい!」とか「布なんか最初から切れていればすぐ縫えるのに!」とか、ついつい思うのですが。面倒くさいことを全て排除してしまっては服作りなんてちっとも面白くないんだなと思い直します。はっきり言って、H&Mにでも行ってkidsのワンピース1枚買うほうが、布代よりも安かったりします(笑)。手作りの服を着るって、ファストファッションの対極、超スロウファッションなんだなあ。

もちろんミシンそのものは進化している部分もあり、昔はなかった「自動糸切り」や「スーパー糸通し」といった機能が付いていたり、エラーメッセージが液晶パネルで表示されていたりと、色々と便利になりました。でも全部が全部、便利になって進化すればいいっていうものではないんですよね。ひとつひとつの行程を積み重ねるからこそ出来上がった時の喜びっていうのがあるものです!というか趣味の世界ってきっとそういうものなんでしょうね。

私は洋裁初心者なので、パンツの股のところの縫い合わせ方が意味わかんないとか、バイアステープの縫い方がイメージしてたのと全然違ったとか、かなり恐る恐る進めていくことも多いので、最後まで仕上げられた時は本当に嬉しいし、出来上がった服を娘に「ちょっと着てみてくれない?」と言う時はめちゃくちゃテンション上がってます(笑)。

裁ちばさみや、カーブルーラー、チャコペーパー、ルレットなど、そう言えば昔、使ったなあと思うようなものを、再び一通り揃えたのですが。洋裁道具は今お店に売られているものでも、昔ながらの良い商品が揃っているので、そのデザインのレトロな可愛さに惚れ惚れします。最近のお気に入りは布に印をつける時に便利なニュー平和チャコ。意外とエッジが効いていて重宝します。

f:id:miki0507:20170818141521j:image

台風と鹿児島。

函館から帰ってきた翌週に、台風の中、鹿児島に行ってきました。現地でライブを観てインタビューをするという内容の出張だったのですが、台風5号が九州を直撃するという予報が出ていて飛行機が欠航しそうだったので慌てて前日に鹿児島入りすることにしました。

一緒に取材を行う編集さんと話し合い「明日だと飛行機が飛ばなさそうだから、今日出発しちゃいましょう」という判断をしたのが既にその日の夕方で。自宅を出発して羽田空港に向かうも、鹿児島行きの便に間に合うにはかなりギリギリの・・・ギリギリ間に合う、かも!?くらいのスケジュールでした。自宅から駅まで、タクシーを呼んで行ったのですが、乗りたい電車に間に合わないという幸先の悪さで「あ〜もうダメかもーーーーー!」とタクシーの中で口に出しちゃったりしながらの出発でした(運転手さんは悪くないです、ごめんなさい!)。

羽田空港に到着してソラシドエアーのカウンターまでダッシュして、搭乗手続きをしてもらったのが出発予定時刻の15分前。もともと購入していた便の変更なので身分証明書が必要だと言われ、財布の中を慌ててゴソゴソしながら「え、間に合うの?間に合うの!?」と思っていたら、カウンターのお姉さんが「ご出発の便は20分の遅れが出ていますので、間に合いますよ」と神の一声!そんなミラクルがあり、だんだんと雨風が強まる中、無事にその日のうちに鹿児島入りしてホテルにチェックインすることができました。ちなみに、その便は鹿児島行きの最終便で、もともと予定していた次の日は鹿児島空港の発着便が全て欠航でした。危ないところでした。

翌日の朝は、本当に台風が鹿児島に直撃していて。飛行機どころか市内の電車もバスも止まっていました。道路には人も全く歩いていなくて、そんな誰もいない街をパトロールするかのように空車のタクシーだけがゆっくりと走っているような状態。夜に予定されていたライブも延期になってしまって、何とかインタビューだけを行って帰ってきました。

ホテルで待機している時間も長かったので、鹿児島駅前から天文館やデパートをぶらぶらしようと歩いていましたが、見事にどこも開いていなかったです。何とか鹿児島ラーメンだけは食べてきましたが、またゆっくり観光しに行きたいなと思います。賑やかなアーケード街を楽しんだり、晴れた日の桜島とか、綺麗な大自然とか見たかったな!

f:id:miki0507:20170817104745j:image

ノスタルジックな雰囲気が素敵な天文館

f:id:miki0507:20170817110041j:image

ほんとに誰もいない!

鹿児島に2泊して帰京したら、ゆっくりと北上していた台風に、また追いつかれてしまったようで。小雨が降る中、自宅の最寄り駅からタクシーに乗り込んで運転手さんと「台風来てますね」「ほんとですね、いま鹿児島から帰ってきたんですけどね」なんて話をしていたら、その方は2日前に羽田に向かう時に乗せていただいたタクシーの運転手さんでした。あの時、奇跡的に飛行機に乗れたんですよ、と感謝の報告をしておきました。函館に行って、鹿児島に行って、この夏の私の大イベントはほぼ終わりました(笑)。

YUKI concert tour “Blink Blink”2017/7月23日函館アリーナ

アルバム『まばたき』をひっさげての、YUKIの全国ツアー、「YUKI concert tour  “Blink Blink”2017」最終日となる7月23日の函館アリーナ公演に行ってきた。YUKIは今年でソロ活動15周年。このタイミングでリリースされたアルバム『まばたき』は、本来のYUKI自身に回帰するようなノスタルジーと、どうしようもない程にエネルギッシュかつポップな作品だった。5周年の時より、10周年の時より、YUKIが精神的に自らの活動を総括し、また、自分が歌うということは何なのかを再定義するような内容に感じた。それは決して後ろ向きなことなんかではなく、15年かけて、ようやくYUKIはここにたどり着けたんだ。長く彼女の音楽を聴き続けてきた者にとっても感慨深い喜びとまた新たな楽しみを受け取ったことだろう。だからこそ、この作品をひっさげてのツアーファイナルが、彼女の故郷である函館で行なわれること。ここにも大きな意味を感じて、どうしても見届けたくて函館に向かうことにした。

ライブは最新アルバムと同様、「暴れたがっている」で始まった。まるでカーネーションを着ているような赤とピンクの衣装に身を包み、大きな頭の羽をゆっくりと揺らし、ステージ中央の階段上に登場したYUKI。1曲目ではバンドとのグルーヴを確かめるように、2曲目の「プレゼント」では階段を降りてきて客席のエネルギーを一身に感じるようにして歌っていた。続く「ドラマチック」では尻尾のように長いふわふわの衣装を器用に振り回しながら踊る姿にも目を奪われる。冒頭から「ハローグッバイ」までの流れで、このツアーがアルバム『まばたき』のみならず過去の楽曲もふんだんに織り交ぜて15周年ベスト的な内容で行なわれることがわかる。

「ただいま、函館!」とYUKIが挨拶すると会場からは大きな声で「おかえりー!!」と返ってきた。「なまらやばいね」と嬉しそうなYUKI。「今回はアルバム『まばたき』を持ってツアーをまわっています。YUKIになって15周年のお祭りでもあります」そして「こんなにみんな来てくれるなんて思わなかった!」と感謝の気持ちを伝える。これは彼女が本当に何度も口にする台詞だ。いつだってこの光景が当たり前のことじゃない、という意味が含まれているように思う。続けて「函館は私が生まれ育った街だから、今日こうしてファイナルに選んだんです」と。ちなみにYUKIが函館でライヴをするのは2005年に行われた「ユキライブジョイ」の(今はなき)函館フライデーナイトクラブ公演以来となる。

その後の流れではソロデビュー曲「the end of shite」をセクシーに披露しつつ、「名も無い小さい花」や「私は誰だ」「こんにちはニューワールド」など、アルバム『まばたき』の楽曲を次々と届けていく。いつだってYUKIは最新モードで最も興奮させてくれるアーティスト。特に、たくさんのミラーボールが輝いてメロウにセンチメンタルに鳴らされた「こんにちはニューワールド」は格別だった。この曲は函館から上京する時の気持ちや、そこから続く長い物語の始まりについて歌った曲で、地元・函館で歌うことは彼女にとって胸にこみ上げるものがあっただろう。《どこまでも終わらないような夢の中で/うしろめたさばかりなの 何故?》そんな歌詞が切なくて、あらためてこのアルバムがいかにYUKI自身の正直な想いが綴られているかを感じた。そして思うのだ、『まばたき』の曲があまりにも素晴らしいので、15周年ベスト的な選曲を入れずに、この『まばたき』の世界観をライヴでがっつりと表現するようなコンセプチュアルなツアーも観たかったな、と。でも瞬時にその想いをかき消した。もう、コンセプトすら必要なかったのがこの『まばたき』というアルバムなのだ。今のYUKIには歌いたいことがあり、歌いたいという強い気持ちがあった。シンプルに、ただそれだけ。素晴らしいメロディがあり、その想いを歌に乗せた。更にこうして過去の曲たちも一緒に並べて、全部抱きしめるようにして歌うのが、15周年というタイミングなのだ。

圧巻の歌声と気迫で会場を包み込んだ「tonight」から、YUKIの衣装チェンジ=お楽しみ映像タイム。ここでの映像はYUKIがロケットに乗って飛んでいったり、象に乗ったり、マリンスポーツをしたりといったCGを使ったユニークなもの。見入って気を許しているうちに、終わった瞬間、YUKIはステージからアリーナ中央に向かってY字型に伸びた花道の上に立っていた。プラチナゴールドのボブヘアーにキラキラと光る水色の衣装だ。そして始まったのは「レディ・エレクトリック」。後ろのヴィジョンとYUKIの動きが連動していて、手や体の動きに合わせてヴィジョンにビリビリと電流が走っているような演出が楽しい。それにしても可愛いこの衣装……素材は何でできているのだろうか。最早、布ではなさそうなものを着こなしているYUKIなのであった。続く「バスガール」で「函館アリーナ」と書かれたバスが走ってきてYUKIがバスガイド役をつとめるという映像もとびきりキュート。さすが永遠のポップスター!と賛辞を送りたくなる、なまらかわいさ。最後の《はい チーズ》の歌声に合わせてオーディエンスと共に記念撮影。すぐにヴィジョンにその写真が映し出されるという大サービスの演出も。そういう意味では、アート的なものよりも、みんなが好きなYUKIが見れたり、みんなで楽しめるポップな演出が多いツアーとも言える。

「メランコリニスタ」「ランデヴー」「ワンダーライン」といったライヴで人気の曲たちで熱気いっぱいに盛り上がった後は、YUKIがロングヘアー+黒いパンタロンのような衣装にサタデー・ナイト・フィーバー的な決めポーズで登場したのが新鮮だった。花道の舞台が少しせり上がり、披露されたのは、これまたみんな大好きな「JOY」。15周年のハイライトにふさわしい、たくさんの思い出が蘇るこの曲が最終日の函館アリーナを華やかに、そして温かく彩っていく。

その後は花道上のステージで8人のミュージシャンが共にスタンバイする中、しばしMCタイム。いつものように、YUKIにたくさんの声援が飛び交い、この日は「YUKIカッコいい!」「カッコいい?今日もカッコ良くてすみませーん!!」が炸裂。そして遂に「函館が生んだスーパースター、YUKIです!」のフレーズが飛び出す。「これ、函館で言いたかったんで、ほんとに嬉しいです」と言っていたけど、ファンもきっと、函館でこれが聞きたかったに違いない(笑)。

そしてこの時、函館ならでは、最終日ならではの大事なことを語ってくれたのだった。

「私はここ、函館で生まれ育ちました。19歳まで、ここにいました。この会場はまだ、なかったんですけど、市民会館ではピアノの発表会をやったこともあるし、向かいの生協(スーパー)はうちの母ちゃんが働いていました。中学の時は2階の文教堂でマンガ読み放題(笑)。だから、なんかすごく不思議。どこを走ってても知ってるから。なんて言うか、すごく切ない感じがする。これは何なのかなって昨日考えたんだけど、わかった。

私の10代、ほんとにひどい10代で。自分ひとりで生きてるって勝手に思っていたんだよね。思い通りにならなくてモヤモヤして色んなことにぶつけたり、家出したり、引き戻されたり(笑)。でも、そのモヤモヤがいつも詞になってた。毎日日記を書いていて、プロになりたい、歌手になりたい、でもどうしたらいいのかわからない。そんなことをいつも函館で思ってた。それを思い出すと同時に、すごく恥ずかしい記憶ばっかり出てくる。全然上手く生きられなかった。(このあたりで泣き出す)恥をかいてばっかりだった。そんな恥ずかしい思い出が蘇ったらすごく切なくなるんだけど。でも私、今もね、恥かいて生きてる。全然立派になんてなってないし。ここにいた頃と全然変わってない。ずっと函館っ子っていうか‥‥YUKIとしてがんばってるけど、うん、函館が私を育ててくれたなと思う」

きっとこの日、観ていたお客さんの多くもそうだったと思う、きっとたくさんの人が、上手く生きられなかったり、上手く笑えなかったり、どうしたらいいかわからなくてもがいていた日々の中で、YUKIの音楽に出会って、励まされたり、力をもらったり、笑顔になったり、してきたんだと思う。だからみんなも、泣きながら話すYUKIの言葉を、泣きながら聞いていたんだろう。

ステージの上のミュージシャンも、お客さんたちも見守る中、YUKIは白いタオルで涙をふいた。そして「ねえ、もっとオシャレなタオルないの?何これ?」と笑わせた。

初めてYUKIのライヴに来た人?と函館っ子に話しかけながら「CDあるから買っていきなさ〜い」と、独特なイントネーション。これはお母さんの真似だそうで、お腹いっぱいなのに「YUKIいいから食べなさ〜い」と言われ、ちょっと目をこすると「YUKIもう寝なさ〜い」と言われるのだとか(笑)。そんなアットホームなエピソードが飛び出すのも地元ならでは。

あらためてアルバム『まばたき』ツアーにちなんでthe winksと名付けられた今回のバンドのメンバーを紹介し、「15年間、その前からだと23年間、詞を書いてきました。いつでも自分がなりたい自分を書いてきました。まだまだなりたい自分には遠いです。だからまだまだ詞を書いていくと思う。この曲、知ってる人がいたら一緒に歌ってください」と「Hello!」へ。スライド奏法によるギターや、ピアニカ、タンバリン、トロンボーンにトランペット……とても芳醇で深みのあるアコースティック・サウンドでゆったりと演奏された。まるで最高の映画を観た後の、美しいエンドロールみたいな気持ちになるようなひとときだった。続いてYUKIアコースティック・ギターを弾きながら歌った「相思相愛」では、ヴィジョンにこの15年間の様々な写真や映像が映し出されながらの演奏となった。いわゆるアーティスト写真やジャケット写真などではなく、おそらくスタッフの方が撮影されたのであろう、スナップ的な写真や映像の中で微笑んだりおどけたりしているYUKIの自然な表情。そして、着ている衣装やシチュエーションなどで、いつ撮影されたものかがわかる。そうやってYUKIの歩みを辿りながら、また自分自身との思い出も重ねながらみんなが聴いているのがわかる、これまたとても良い時間だった。しかし最後の最後まで気迫に満ちた声を震わせるようにして渾身の歌を放ったYUKI。曲の終わりには手書きの文字で彼女からのメッセージがヴィジョンいっぱいに広がった。「15年間 良い時も そうでない時も いつもそばにいてくれてありがとう」。

でもさっきのエンドロール的なムードなんて何だったんだろうという程に、まだまだ盛り上がっていくのがYUKIのライヴ。バンドのメンバーとメインステージに戻ると、赤い傘をくるくると回しながらコケティッシュな魅力を放出しながら歌われた「恋愛模様」。和的情緒のある歌い回しや、ビッグバンド・ジャズ風の大迫力サウンドが特徴的なこうした楽曲にもYUKIのユーモアとクリエイティヴィティに満ちた音楽家としての歩みを感じさせる。一転して切ない「2人のストーリー」がそっと火照った心を撫でるように奏でられ、センチメンタルなメロディに身を預けながら、何だかこの夜が終わってしまうのが惜しいなと思った。しかし本当に本当のハイライトは次の、22曲目となる「聞き間違い」ではなかっただろうか。アルバム『まばたき』でもとびきり輝きを放っていた名曲が、丁寧に大切に、鳴らされる。この曲の歌詞はYUKIが書いてきた作品たちの中でも今しか書けない集大成として抜群の素晴らしさとキレ味の鋭さを持っていると思う。ものすごく大事なものに触れ続けているような言葉たちなので、どのラインを抜き出したらいいのかもわからないくらいだ。

《互い違いのボタンかけ間違えたまんまじゃあ おいしい夢だけ食べて生きられないよ/それは時に厳しく 道を踏み外してしまう 愛を止めないで気付いてく 旅の途中》

このあたりなんて「歓びの種」の続編みたいなメッセージ性を感じさせるなと思っていたら《歓びに頬を緩め 朝焼けに 足るを知る 私にしか歌えない歌があるんだ》なんて核心を突く。しかし何より、ガツンとくるの、ここなんだ。

《「素直で明るいだけで人には価値がある」と 誰でもいい もう少し早く教えてよ》

函館で上手く生きられなかった10代のYUKIに、大人になった今のYUKIが歌いに来てあげたんだ。函館アリーナで熱唱する彼女の姿に、その歌に込められた想いに、息継ぎが苦しいほどに泣いてしまった。

そんな感傷を吹き飛ばすような「さよならバイスタンダー」、フライングVを弾きながらロックスターぶりを見せてくれた「鳴いてる怪獣」、ホーン・セクションとのコール&レスポンスも見事だった「WAGON」など、最後の最後までエネルギッシュだったこの夜。そして笑顔で「サンキュー函館!」と叫び、キラキラのテープが宙を舞った「トワイライト」がラストを飾る。アルバム『まばたき』の最後に収録されていたこの曲が、新たな盛り上がりチューンとしてこのツアーで愛されてきたことがわかる楽しいフィナーレだった。

思えばアルバム『まばたき』は1曲目「暴れたがっている」の《あがいてたら 振り出しに戻ってた》という歌い出しで始まっている。ソロとしてひとりで歩み始めたYUKIが、この15年間たくさんの旅をして、本来の自分自身や、ルーツや、ただ理由もなく歌いたいと思った時の衝動といった振り出しの場所に立ち返れたのが今。

そんなツアー最終日を彼女の生まれ育った函館で見届けることができて、YUKIの素直な現在の気持ちに触れた気がしたし、19歳の時のままのがむしゃらで必死だった女の子が今のYUKIの胸の中にまだいるということを知って、アルバム『まばたき』を聴いた時と同じようにとても嬉しい気持ちになった。YUKIもきっと、そんなかつての自分にまた会いたくて、忘れてないよって言いたくて、「サンキュー函館!お父さんお母さんあたしを生んでくれてありがとう!」と函館アリーナで叫んだのだろう。