愛されジョーズ

music writer 上野三樹

YUKI concert tour “Blink Blink”2017/7月23日函館アリーナ

アルバム『まばたき』をひっさげての、YUKIの全国ツアー、「YUKI concert tour  “Blink Blink”2017」最終日となる7月23日の函館アリーナ公演に行ってきた。YUKIは今年でソロ活動15周年。このタイミングでリリースされたアルバム『まばたき』は、本来のYUKI自身に回帰するようなノスタルジーと、どうしようもない程にエネルギッシュかつポップな作品だった。5周年の時より、10周年の時より、YUKIが精神的に自らの活動を総括し、また、自分が歌うということは何なのかを再定義するような内容に感じた。それは決して後ろ向きなことなんかではなく、15年かけて、ようやくYUKIはここにたどり着けたんだ。長く彼女の音楽を聴き続けてきた者にとっても感慨深い喜びとまた新たな楽しみを受け取ったことだろう。だからこそ、この作品をひっさげてのツアーファイナルが、彼女の故郷である函館で行なわれること。ここにも大きな意味を感じて、どうしても見届けたくて函館に向かうことにした。

ライブは最新アルバムと同様、「暴れたがっている」で始まった。まるでカーネーションを着ているような赤とピンクの衣装に身を包み、大きな頭の羽をゆっくりと揺らし、ステージ中央の階段上に登場したYUKI。1曲目ではバンドとのグルーヴを確かめるように、2曲目の「プレゼント」では階段を降りてきて客席のエネルギーを一身に感じるようにして歌っていた。続く「ドラマチック」では尻尾のように長いふわふわの衣装を器用に振り回しながら踊る姿にも目を奪われる。冒頭から「ハローグッバイ」までの流れで、このツアーがアルバム『まばたき』のみならず過去の楽曲もふんだんに織り交ぜて15周年ベスト的な内容で行なわれることがわかる。

「ただいま、函館!」とYUKIが挨拶すると会場からは大きな声で「おかえりー!!」と返ってきた。「なまらやばいね」と嬉しそうなYUKI。「今回はアルバム『まばたき』を持ってツアーをまわっています。YUKIになって15周年のお祭りでもあります」そして「こんなにみんな来てくれるなんて思わなかった!」と感謝の気持ちを伝える。これは彼女が本当に何度も口にする台詞だ。いつだってこの光景が当たり前のことじゃない、という意味が含まれているように思う。続けて「函館は私が生まれ育った街だから、今日こうしてファイナルに選んだんです」と。ちなみにYUKIが函館でライヴをするのは2005年に行われた「ユキライブジョイ」の(今はなき)函館フライデーナイトクラブ公演以来となる。

その後の流れではソロデビュー曲「the end of shite」をセクシーに披露しつつ、「名も無い小さい花」や「私は誰だ」「こんにちはニューワールド」など、アルバム『まばたき』の楽曲を次々と届けていく。いつだってYUKIは最新モードで最も興奮させてくれるアーティスト。特に、たくさんのミラーボールが輝いてメロウにセンチメンタルに鳴らされた「こんにちはニューワールド」は格別だった。この曲は函館から上京する時の気持ちや、そこから続く長い物語の始まりについて歌った曲で、地元・函館で歌うことは彼女にとって胸にこみ上げるものがあっただろう。《どこまでも終わらないような夢の中で/うしろめたさばかりなの 何故?》そんな歌詞が切なくて、あらためてこのアルバムがいかにYUKI自身の正直な想いが綴られているかを感じた。そして思うのだ、『まばたき』の曲があまりにも素晴らしいので、15周年ベスト的な選曲を入れずに、この『まばたき』の世界観をライヴでがっつりと表現するようなコンセプチュアルなツアーも観たかったな、と。でも瞬時にその想いをかき消した。もう、コンセプトすら必要なかったのがこの『まばたき』というアルバムなのだ。今のYUKIには歌いたいことがあり、歌いたいという強い気持ちがあった。シンプルに、ただそれだけ。素晴らしいメロディがあり、その想いを歌に乗せた。更にこうして過去の曲たちも一緒に並べて、全部抱きしめるようにして歌うのが、15周年というタイミングなのだ。

圧巻の歌声と気迫で会場を包み込んだ「tonight」から、YUKIの衣装チェンジ=お楽しみ映像タイム。ここでの映像はYUKIがロケットに乗って飛んでいったり、象に乗ったり、マリンスポーツをしたりといったCGを使ったユニークなもの。見入って気を許しているうちに、終わった瞬間、YUKIはステージからアリーナ中央に向かってY字型に伸びた花道の上に立っていた。プラチナゴールドのボブヘアーにキラキラと光る水色の衣装だ。そして始まったのは「レディ・エレクトリック」。後ろのヴィジョンとYUKIの動きが連動していて、手や体の動きに合わせてヴィジョンにビリビリと電流が走っているような演出が楽しい。それにしても可愛いこの衣装……素材は何でできているのだろうか。最早、布ではなさそうなものを着こなしているYUKIなのであった。続く「バスガール」で「函館アリーナ」と書かれたバスが走ってきてYUKIがバスガイド役をつとめるという映像もとびきりキュート。さすが永遠のポップスター!と賛辞を送りたくなる、なまらかわいさ。最後の《はい チーズ》の歌声に合わせてオーディエンスと共に記念撮影。すぐにヴィジョンにその写真が映し出されるという大サービスの演出も。そういう意味では、アート的なものよりも、みんなが好きなYUKIが見れたり、みんなで楽しめるポップな演出が多いツアーとも言える。

「メランコリニスタ」「ランデヴー」「ワンダーライン」といったライヴで人気の曲たちで熱気いっぱいに盛り上がった後は、YUKIがロングヘアー+黒いパンタロンのような衣装にサタデー・ナイト・フィーバー的な決めポーズで登場したのが新鮮だった。花道の舞台が少しせり上がり、披露されたのは、これまたみんな大好きな「JOY」。15周年のハイライトにふさわしい、たくさんの思い出が蘇るこの曲が最終日の函館アリーナを華やかに、そして温かく彩っていく。

その後は花道上のステージで8人のミュージシャンが共にスタンバイする中、しばしMCタイム。いつものように、YUKIにたくさんの声援が飛び交い、この日は「YUKIカッコいい!」「カッコいい?今日もカッコ良くてすみませーん!!」が炸裂。そして遂に「函館が生んだスーパースター、YUKIです!」のフレーズが飛び出す。「これ、函館で言いたかったんで、ほんとに嬉しいです」と言っていたけど、ファンもきっと、函館でこれが聞きたかったに違いない(笑)。

そしてこの時、函館ならでは、最終日ならではの大事なことを語ってくれたのだった。

「私はここ、函館で生まれ育ちました。19歳まで、ここにいました。この会場はまだ、なかったんですけど、市民会館ではピアノの発表会をやったこともあるし、向かいの生協(スーパー)はうちの母ちゃんが働いていました。中学の時は2階の文教堂でマンガ読み放題(笑)。だから、なんかすごく不思議。どこを走ってても知ってるから。なんて言うか、すごく切ない感じがする。これは何なのかなって昨日考えたんだけど、わかった。

私の10代、ほんとにひどい10代で。自分ひとりで生きてるって勝手に思っていたんだよね。思い通りにならなくてモヤモヤして色んなことにぶつけたり、家出したり、引き戻されたり(笑)。でも、そのモヤモヤがいつも詞になってた。毎日日記を書いていて、プロになりたい、歌手になりたい、でもどうしたらいいのかわからない。そんなことをいつも函館で思ってた。それを思い出すと同時に、すごく恥ずかしい記憶ばっかり出てくる。全然上手く生きられなかった。(このあたりで泣き出す)恥をかいてばっかりだった。そんな恥ずかしい思い出が蘇ったらすごく切なくなるんだけど。でも私、今もね、恥かいて生きてる。全然立派になんてなってないし。ここにいた頃と全然変わってない。ずっと函館っ子っていうか‥‥YUKIとしてがんばってるけど、うん、函館が私を育ててくれたなと思う」

きっとこの日、観ていたお客さんの多くもそうだったと思う、きっとたくさんの人が、上手く生きられなかったり、上手く笑えなかったり、どうしたらいいかわからなくてもがいていた日々の中で、YUKIの音楽に出会って、励まされたり、力をもらったり、笑顔になったり、してきたんだと思う。だからみんなも、泣きながら話すYUKIの言葉を、泣きながら聞いていたんだろう。

ステージの上のミュージシャンも、お客さんたちも見守る中、YUKIは白いタオルで涙をふいた。そして「ねえ、もっとオシャレなタオルないの?何これ?」と笑わせた。

初めてYUKIのライヴに来た人?と函館っ子に話しかけながら「CDあるから買っていきなさ〜い」と、独特なイントネーション。これはお母さんの真似だそうで、お腹いっぱいなのに「YUKIいいから食べなさ〜い」と言われ、ちょっと目をこすると「YUKIもう寝なさ〜い」と言われるのだとか(笑)。そんなアットホームなエピソードが飛び出すのも地元ならでは。

あらためてアルバム『まばたき』ツアーにちなんでthe winksと名付けられた今回のバンドのメンバーを紹介し、「15年間、その前からだと23年間、詞を書いてきました。いつでも自分がなりたい自分を書いてきました。まだまだなりたい自分には遠いです。だからまだまだ詞を書いていくと思う。この曲、知ってる人がいたら一緒に歌ってください」と「Hello!」へ。スライド奏法によるギターや、ピアニカ、タンバリン、トロンボーンにトランペット……とても芳醇で深みのあるアコースティック・サウンドでゆったりと演奏された。まるで最高の映画を観た後の、美しいエンドロールみたいな気持ちになるようなひとときだった。続いてYUKIアコースティック・ギターを弾きながら歌った「相思相愛」では、ヴィジョンにこの15年間の様々な写真や映像が映し出されながらの演奏となった。いわゆるアーティスト写真やジャケット写真などではなく、おそらくスタッフの方が撮影されたのであろう、スナップ的な写真や映像の中で微笑んだりおどけたりしているYUKIの自然な表情。そして、着ている衣装やシチュエーションなどで、いつ撮影されたものかがわかる。そうやってYUKIの歩みを辿りながら、また自分自身との思い出も重ねながらみんなが聴いているのがわかる、これまたとても良い時間だった。しかし最後の最後まで気迫に満ちた声を震わせるようにして渾身の歌を放ったYUKI。曲の終わりには手書きの文字で彼女からのメッセージがヴィジョンいっぱいに広がった。「15年間 良い時も そうでない時も いつもそばにいてくれてありがとう」。

でもさっきのエンドロール的なムードなんて何だったんだろうという程に、まだまだ盛り上がっていくのがYUKIのライヴ。バンドのメンバーとメインステージに戻ると、赤い傘をくるくると回しながらコケティッシュな魅力を放出しながら歌われた「恋愛模様」。和的情緒のある歌い回しや、ビッグバンド・ジャズ風の大迫力サウンドが特徴的なこうした楽曲にもYUKIのユーモアとクリエイティヴィティに満ちた音楽家としての歩みを感じさせる。一転して切ない「2人のストーリー」がそっと火照った心を撫でるように奏でられ、センチメンタルなメロディに身を預けながら、何だかこの夜が終わってしまうのが惜しいなと思った。しかし本当に本当のハイライトは次の、22曲目となる「聞き間違い」ではなかっただろうか。アルバム『まばたき』でもとびきり輝きを放っていた名曲が、丁寧に大切に、鳴らされる。この曲の歌詞はYUKIが書いてきた作品たちの中でも今しか書けない集大成として抜群の素晴らしさとキレ味の鋭さを持っていると思う。ものすごく大事なものに触れ続けているような言葉たちなので、どのラインを抜き出したらいいのかもわからないくらいだ。

《互い違いのボタンかけ間違えたまんまじゃあ おいしい夢だけ食べて生きられないよ/それは時に厳しく 道を踏み外してしまう 愛を止めないで気付いてく 旅の途中》

このあたりなんて「歓びの種」の続編みたいなメッセージ性を感じさせるなと思っていたら《歓びに頬を緩め 朝焼けに 足るを知る 私にしか歌えない歌があるんだ》なんて核心を突く。しかし何より、ガツンとくるの、ここなんだ。

《「素直で明るいだけで人には価値がある」と 誰でもいい もう少し早く教えてよ》

函館で上手く生きられなかった10代のYUKIに、大人になった今のYUKIが歌いに来てあげたんだ。函館アリーナで熱唱する彼女の姿に、その歌に込められた想いに、息継ぎが苦しいほどに泣いてしまった。

そんな感傷を吹き飛ばすような「さよならバイスタンダー」、フライングVを弾きながらロックスターぶりを見せてくれた「鳴いてる怪獣」、ホーン・セクションとのコール&レスポンスも見事だった「WAGON」など、最後の最後までエネルギッシュだったこの夜。そして笑顔で「サンキュー函館!」と叫び、キラキラのテープが宙を舞った「トワイライト」がラストを飾る。アルバム『まばたき』の最後に収録されていたこの曲が、新たな盛り上がりチューンとしてこのツアーで愛されてきたことがわかる楽しいフィナーレだった。

思えばアルバム『まばたき』は1曲目「暴れたがっている」の《あがいてたら 振り出しに戻ってた》という歌い出しで始まっている。ソロとしてひとりで歩み始めたYUKIが、この15年間たくさんの旅をして、本来の自分自身や、ルーツや、ただ理由もなく歌いたいと思った時の衝動といった振り出しの場所に立ち返れたのが今。

そんなツアー最終日を彼女の生まれ育った函館で見届けることができて、YUKIの素直な現在の気持ちに触れた気がしたし、19歳の時のままのがむしゃらで必死だった女の子が今のYUKIの胸の中にまだいるということを知って、アルバム『まばたき』を聴いた時と同じようにとても嬉しい気持ちになった。YUKIもきっと、そんなかつての自分にまた会いたくて、忘れてないよって言いたくて、「サンキュー函館!お父さんお母さんあたしを生んでくれてありがとう!」と函館アリーナで叫んだのだろう。