愛されジョーズ

music writer 上野三樹

奄美の島唄と共に紡ぐ、映画『海辺の生と死』

第二次世界大戦末期の奄美群島加計呂麻島(かけろまじま)を舞台に、海軍特攻隊の隊長と、国民学校教師である女性との激しく切ない恋愛を描いた映画『海辺の生と死』を観てきました。永山絢斗さん演じる朔隊長と満島ひかりさん演じるトエ先生が、出会って恋をして、常に死と隣合わせである日々の中で、互いを強く抱きしめ、戦争を憎み、壮絶な覚悟を持って愛し合う様が、島の大自然と共にスクリーンいっぱいに伝わってきました。

トエ先生と子供たちとのやり取りは、とても心温まるし癒されます。そしてまた、朔隊長も子供たちが大好き。兵隊たちが勇ましい軍歌を大声で歌っているのを横目に、「あんな歌よりもこの島の歌をたくさん覚えたい」と言うのです。そうした全く隊長らしくない優しい人間性にトエは惹かれていったのでしょう。

沖縄育ちであり、ルーツは奄美大島にあるという満島ひかりさん。彼女が島唄を歌うシーンがふんだんにあり、歌がこの映画の中でとても重要な役割を果たしています。時折、字幕が出るほど標準語とはかけ離れた島の方言や、繊細な歌い回しの節を持つ奄美島唄。満島さんもかなり勉強されたんだろうなと思います。昔から歌い継がれてきた島唄には、その土地の背景と、そこで暮らしてきた人々の日常、そこにある想いが込められています。島唄にはもちろん男性が歌う労働歌のようなものもありますが、劇中には女性目線の島唄が多く歌われています。母親が子供や愛する人のことを想って歌ったものや、報われない恋の切なさを歌ったものなど、それらはおそらく鼻歌のようにさりげない場面で女性たちが歌い継いできたものだと思うけれど、そこから深い感情が滲んできます。おばあちゃんや、お母さんが歌ってきた島唄を、また娘が歌い継ぐなんてことを繰り返してきた歴史を思うと感慨深いものがあります。

『海辺の生と死』というタイトルの通り、豊かな自然とそこに暮らす人々の温かで愛に満ちた「生」と、その全てが一瞬にして踏みにじられて奪われてしまう「死」が、すぐそばに隣り合わせで描かれている今作。人と人とを繋ぎ、心を穏やかにし、そして明日に祈るような島唄が、生と死の真ん中で清らかに鳴っている。

愛する男が出撃してしまうかもしれないという夜の、トエの激情を見事に演じきった満島ひかりさん。死を目前にした自らの不安など表に出さず、トエを全身で受け止めるような穏やかさと頼もしさで演じきった永山絢斗さん。ふたりのコントラストがまさにひとつの確固たる愛の形に思えてとても素敵でした。

 

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