愛されジョーズ

music writer 上野三樹

出オチ感最高、絵本『わにわにのおおけが』シリーズ。

娘3歳が初めて絵本を指差して文字を読むようなそぶりを見せたのが『わにわにのおおけが』。特に「お」という文字が好きみたいで「お・お・け・が!」と楽しそう。小風さちさんが物語を作り、山口マオさんが木版画で絵を担当されているこの絵本は『わにわにのごちそう』や『わにわにのおでかけ』など、わにわにシリーズとして親しまれているようです。

何と言っても、わにわにのゴツゴツとした硬い皮膚と黄色い瞳が、とってもワイルドなのですが、描かれている背景が完全に日本の民家。『わにわにのおおけが』でも木造の一軒家を思わせる、廊下を「ずり づづ ずり づづ」と歩いてくるシーンから始まります。もうそれだけで、どこからツッコミをいれたらいいのかわからない出オチ感満載。ちなみに『わにわにのごちそう』ではおなかをすかせたわにわにがキッチンにグイッと顔を覗かせながらの登場。『わにわにのおでかけ』では畳の上に敷いた花模様の布団に横たわるわにわにの姿を大胆に描きながら「よるです。」の一言で始まります。わにわにシリーズは毎回、この最初の1ページでの掴みの強引さとワクワクがたまりません。

山口マオさんによる木版画の日本情緒溢れる味わい深さが、わにわにのオッサンっぽい日常によく合っていて、特に『わにわにのおでかけ』における夏祭りの賑やかな風景や花火が上がった後の少しさびしい帰り道の様子は大人も染み入るものがあります。

わにわにがオッサンっぽいと書きましたが、ちょっぴり小心者なところも子供たちには親しみやすさとなって響いているようで。『わにわにのおおけが』では工作中に指をケガしてしまったわにわにが包帯をぐるぐる巻いて、巻きすぎてどんどん大きくなる様がユーモラスに描かれています。ケガをして血が出てしまうシーンは子供心になかなか衝撃もあるようで、娘はそのページの前には手で顔を覆い、指の隙間から見ています(笑)。山口マオさんが『わにわにのおおけが』についてインタビューに応えている記事を読んだのですが、このエピソードはご自身が「大型のカッターで人差し指と親指のじん帯断裂という大怪我をして、自ら救急病院に駆け込み、緊急手術をした事件が下地になっています」とのこと。それを知った小風さんがわにわにのお話にしちゃったというわけ。工作中にケガをしないように気をつけようね、とかではなく、まさに作家の身を削るような出来事から生まれたものだったとは!大人だったらシュールだな、とか、何でこんなところにわにが?とか思うけれど、子供の純粋な感性に強烈に訴えかける世界観というのがこの、わにわにシリーズにはあるんだなと感じます。『わにわにとあかわに』『わにわにのおふろ』も読んでみたいです。

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