愛されジョーズ

music writer 上野三樹

「岩里祐穂×森雪之丞 -Ms.リリシスト〜トークセッションvol.4-」作詞家同志だからこそ、わかること。

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9月9日の土曜日、作詞家の岩里祐穂さんにお誘いいただき「岩里祐穂×森雪之丞 -Ms.リリシスト〜トークセッションvol.4-」に行ってきました。昨年の5月に作詞家デビュー35周年を迎えられた、岩里祐穂さん。それを記念して発売されたアルバム『Ms.リリシスト』のブックレットで私は、坂本真綾さん、中川翔子さん、花澤香菜さんとの対談司会のお仕事をさせていただきました。

このアルバムのリリースを機に、様々な作詞家とのトークイベントを行っている岩里さんですが、高橋久美子さん、松井五郎さん、ヒャダインさんに続き、第4回目となる今回のゲストは森雪之丞さん。

森雪之丞さんは1976年に作詞・作曲家としてデビューされて以降、誰もが知っているアニメソングやポップソングのヒット曲の数々を手がけ、90年代以降は布袋寅泰さん、hideさん、氷室京介さんなどロック・アーティストからの信頼も厚く次々と新しい時代を切り開くような名曲を共に生み出してきた方です。岩里さんにとってトークイベントのゲストとしては初の先輩にあたる方ですが、80年代から今まで、作詞家として共に第一線を走り続けているおふたりならではのトーク。それぞれの作詞へのこだわりや同じ作詞家同志だからこそわかりあえる情熱や大変さも垣間見える、とても刺激的な時間でした。

まずは岩里さんいわく「褒め殺しコーナー」ということで、相手が作詞したものの中から好きな曲をチョイスして、スクリーンにその歌詞を映し出しながら解説したり質問をぶつけたりしていきます。まず最初に岩里さんが選んだのは1999年にリリースされた布袋寅泰さんの「バンビーナ」。岩里さんはこの歌詞を「ギリギリにエロティックなワードとキュートなワード。そのバランスが絶妙で下品にならない」と絶賛。

容姿は幼稚で陽気な様でも

酔うと異様に妖艶なヤツ

ロリータ・ウインクでキャンディーねだって

娼婦の唇でしゃぶってみろよ


「バンビーナ」

軽快な言葉遊びで韻を踏みまくる歌詞がロカビリーっぽい曲調にすごくはまっています。更に岩里さんが「ここが最高!」と言った部分が〈退屈するとちゃんと浮気する 小悪魔BAMBINA〉。ただ浮気するのではなく、〈ちゃんと〉浮気するのだ、と。これは森さんもかなり気に入っている様で「そうなんだよ!」と嬉しそうでした。確かに、この女の子の奔放な魅力や、主人公との関係性がチャーミングに感じ取れる一節です。 

次に森さんが岩里さんの作品の中で好きな歌詞として挙げたのは新垣結衣さんの「うつし絵」。これはメレンゲのクボケンジさんによる作曲なのですが、彼がメロディに込めた繊細な心情描写を岩里さんが言葉で浮き彫りにしたような、素晴らしいコラボレーションを感じる1曲です。森さんが「特にここがいいんだよ!」と言った部分はこちら。

明日と昨日 順番がかわり

もしも今日の次が昨日なら

君にもういちど 会えるかな

「うつし絵」

 「君に会いたい」という気持ちをいかに別の表現で言葉にするか、というのが作詞家の仕事だけど、この言い方は岩里さんが世界で初めて見つけた言い方なんだよ。森さんはそんな風におっしゃっていました。きっと、それを見つけるまでの苦しみも、見つけた時の喜びも、作詞家というお仕事の醍醐味なのでしょう。

そんな流れの中で岩里さんはデビュー当時に「キャッチーなものを求められる中で、自分は日常にある上手く言えない気持ちをどれだけわかりやすく書けるか」で勝負しようと思ったそうです。そんな彼女の武器は「キャッチーの裏返し」なのだとか。一方で、森さんは自分のことを「反逆の詩人」と言うのですから、そのひねくれ具合というか、ちょっと似たものを感じます。

岩里さんが次に挙げた曲はBabeの「I Don't Know!」だったのですが、森さんは「バブルの頃だけどお人形のようなキラキラではなく彼女たちを輝かせたい、世間の風潮には踊らされない2人」をイメージしてこの歌詞を書いたそうです。まさに「反逆の詩人」の仕事なのです。

バーゲンされた 夢のまぶしさに

君は迷う うかれ街のショーウインドウ

だけど 本当に探してるものは

君の胸に隠れてるかもしれない

心で光る 宝石は 

誰もキャッシュじゃ 買えないさ

「I Don't Know!」 

岩里さんは特にサビの〈I Don't Know Lonliness君のLonliness〉と、〈Lonliness〉をリフレインさせることで当時流行っていた洋楽カバー曲のようなテイストを完全オリジナル楽曲で表現していると。更に〈みんなに 愛を配る/天使なんて いないから〉の部分も特徴的だと言う。森雪之丞さんの歌詞には度々、〈天使〉が登場するのだけれど、それに関して「僕にとっての〈天使〉は人をうつす鏡。僕の大事なキャストのひとり」とおっしゃっていました。

次に森さんが挙げた曲は、しょこたんこと中川翔子さんの父親で、シンガソングライターとして活躍されていた中川勝彦さんの「Skinny」。こちらは森さんが〈聞き分けのない肌で 砂浜のオペレッタ〉の部分が特に素敵だと紹介。アルバム『Ms.リリシスト』にも収録されている、岩里さんがまだ作詞家として2年目の頃の作品です。

続いて岩里さんはアニメ『ドラゴンボールZ』のオープニングテーマ「CHA-LA HEAD-CHA-LA」を挙げて、〈顔を 蹴られた地球が怒って/火山を爆発させる〉〈溶けた北極(こおり)の中に/恐竜がいたら 玉乗り仕込みたいね〉といった巨大スケールの発明的名フレーズの数々を絶賛。

CHA-LA HEAD-CHA-LA〉というフレーズを何故思いついたのか?という質問に「あれは普通に日本語を乗せてたら〈バカ おまえは〉くらいしか乗らないんだよ(笑)」と言っていた森さん。日本語はロックに乗らないということに、森さん自身も葛藤していたようですが「桑田佳祐さんがサザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」で〈そうね だいたいね〉と歌った瞬間に、日本語ロックの扉が開いたんだよ」と。そこからは日本語でも空気をかきまわせるような言葉を探して作詞をしていったそうです。シブがき隊の「ZOKKON命ーLOVEー」など2文字しか乗らないところに「スキ」でも「バカ」でもなく「ゾッコン」と乗せてみる。そんな斬新な試みから森さんの面白い歌詞は生まれていったようです。

森さんが「楽曲の本質を言葉で言い当てる」と言えば、岩里さんは「音楽をいかに理解できるか。どんな風にパズルを解くか」が作詞において大事だと語る。作詞家志望なのでしょうか、私の隣に座っている青年も熱心にメモを取りながら聞いていました。

そして最後に岩里さんが挙げた3曲目はVANILLAの「愛をちょうだい」。私、この曲のことをすっかり忘れていたのですがスクリーンに歌詞が映し出された瞬間に「うわ、全部歌える!!何だっけ!!」と半ばパニックになりました(笑)。懐かしい。これがもうほんとに強烈インパクトの歌詞と楽曲なんですよね。

ばったりへたばったりくたばったりしてるひも愛をちょうだい

ついたりはりついたりかみついたりやすみなくやってちょうだい

ぶったりえらぶったりとらぶったりするまえに愛をちょうだい

とんだりすっとんだりかっとんだりあれこれとやってちょうだい

世間にはじかれて 爪を噛む男

あなたの唇がたまらない

「愛をちょうだい」

 ちなみに森さんは〈たっぷりおとこっぷりぐらんぷりかくとくで〉のところが気に入っているそうで「ぐらんぷり、だけ名詞なんだよね!」と笑顔。森さんが選んだ、岩里さんのラスト1曲はズバリ、菅野よう子さんとのタッグで制作されたテレビアニメ『マクロスF』の後期エンディングテーマ「ノーザンクロス」でした。

誰か空虚の輪郭をそっと撫でてくれないか

胸の鼓動にけとばされて転がり出た愛のことば

だけど 困ったナ 応えがない

宿命にはりつけられた北極星が燃えてる

君をかきむしって濁らせた

なのに 可憐に笑うとこ 好きだったよ

ノーザンクロス

 岩里さんはこの歌詞を「生理的に違和感のある言葉を並べたかった」「色んな気持ちを熊手でかき集めてぐしゃぐしゃにするような感じ」と解説。森さんは歌い出しの〈たぶん失うのだ〉と〈そして始まるのだ〉の対比も素晴らしいとコメント。

最後に「今日は作詞家志望の方もいらっしゃってるかと思いますので何かアドバイスを」と岩里さんが森さんに尋ねました。すると「僕は詞が書けないからではなくて、詞心があって詞が書けるアーティストからも頼まれるような作詞家でありたいと思っている。90年代、ロックの連中と毎晩のように呑んでいた日々が今の僕を作っています」と話してくれた。更に「自分から何か始めれば、必ず形になりますよ」と。

高校時代にジャックスの早川義夫さんに憧れてロックバンドを結成し、オリジナル曲を作り始めたという森さん。作詞家となり、やがて早川さんに「森くんの歌をうたってみたい」と言ってもらって「天使の遺言」という曲ができたというエピソードも感動的でした。「僕にも憧れがあって仕事をしてきているということを思い出させてくれる曲」なのだそうです。

作詞家という仕事は、コンペもしかり、まず依頼ありきの職業というイメージがありますが、思えば岩里さんも「黄色いTV」という楽曲を今井美樹さんにプレゼンしたことから、後の「PIECE OF MY WISH」などの大ヒット曲が生まれるなど、自ら道を切り拓いていった方です。メロディに合った言葉はもちろんのこと、アーティストが進むべき道を照らしたり、その時々で自分自身が発信したいメッセージをも込めながら、言葉を紡ぐことができる。森雪之丞さんも岩里祐穂さんもそんな作詞家だからこそ、永い間、愛され続けて心に深く刻まれるような名曲を生み続けているのではないかなと思いました。

傳田真央さんによる弾き語りも含めて2時間半!トークイベントとしては長丁場ですが、内容充実であっという間の刺激的なひとときでした。